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3-11 悪人面の王子様

***11*** 

「………その時は気にならなかったんだ。……でも、だんだん……」言いながら有芯は顔を覆った。その様子を見て、智紀はテーブルの残骸を片付けるのをやめ、有芯のすすり泣く声に耳を済ませた。

「なぁ俺、あいつのこと幸せにできないのかなぁ?! 俺じゃ……あいつを苦しめるだけなのかなぁ……っ」

有芯がそこまで言った時、智紀が立ったまま正面から両手を彼の肩にバン!と勢いよく乗せた。

智紀はそのままの姿勢でゆっくりと言った。「らしくねぇじゃねぇか」

「……るせぇ」有芯は涙を拭った。

「人は物じゃねぇんだ、お前は惚れた女なら何よりも大事にしてるだろ、いつだって」

「……でも、俺は10年前だって……」

「落ち込むな。お前、ちょっとこのごろ色々あって弱気になってるぞ。そんなんじゃ敵の思うつぼだぜ?! しっかりしろ。それはクソ野郎が間違ってるよ。朝子先輩は、今まさに壊れかけてるんだ。……お前のせいでな」

有芯は絶望した声で呟いた。「……ほら見ろ」

「でもお前が行って助けてあげれば、先輩はきっと大丈夫だ。クソ野郎が行って中絶なんかさせられてみろ、先輩はどうなる? 今度こそ本当に壊れちまうぞ」

静かな智紀の言葉に、硬直したままの有芯の目から、また涙が流れた。

「お前は自分のしたことに責任を持つ、その事だけを今は考えればいい。全く……白馬に乗った王子様が、めそめそ泣いてんじゃねぇよ。お姫様がかわいそうだろうが」

有芯は顔を上げて後ろ頭をカリカリ掻いた。「王子様?! そんなんじゃねぇよ、だいたいあの暴力女がお姫様なんて納得いかねぇし」

「全くだ」

そう言い大きく頷いた智紀に、有芯は突っかかった。「同意すんじゃねぇ! 朝子は俺の女だぞ! ……あ」

智紀はニヤリと笑った。

「全くだ。それでいい」

「……全く」有芯も涙顔のままニヤリと笑った。

「そうそう、その悪人面の方がお前には似合うよ」

「誰が悪人だ、白馬の王子様に向かって!」

「おえぇっ、誰が王子だって?!」

「誰って、言ったのお前だろ!?」

二人は笑い、壊れたテーブルを片付けた。

適当に食事を済ませると、有芯は少し休んだらどうだという智紀の提案を断り、また出かけていった。その後ろ姿を見て、智紀は苦笑する。

やっぱりお前は先輩の王子様だよ。……ま、悪人面だがな。

彼はしばらくぼんやりと煙草をふかし紙飛行機を飛ばすと、地図帳を手に口笛を吹きながら出かけていった。




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